長夜を徹して
向こう側に渡り
目が別の夜に触っている
昼がない
蝋燭の束が燃えて
徹夜の通路の真ん中に
ひらひら燃え
散り乱れている雪
雪
通路の向こう端についた瞬間に
僕と貴方はぶらぶらと太陽の蔭にぶつかった
私たちは互いにぶつかり合い
薄い紙でできた家の中で眩暈している
凄く薄い、薄い
またもう一晩がまもなく明ける
血が滲んでいる涙が零れ
静かに零れて
東雲の方に飛んでいて
雄鶏の声に代わって鳴いている
僕がわざともう少しベッドに残り
太陽が爬って上がるのを待つ
巨大なトカゲの産道から爬って上がってくる
淡い赤い雲の一面を
破って
トッテナム・コート・ロードの交差点* の上に上がっているのは
未受精の太陽
2006年2月・12月
* トッテナム・コート・ロード: Tottenham Court Road、ロンドンの電気街である。この交差点は、Tottenham Court Road通り がOxford Street通りを交わっているところ。
霊感的歴史
グェン・トン・クァイ(阮宗奎)*とクリフォード・ギアツ(Clifford Geertz)**に贈る
ハイテク産業区は茫々と茂るイヌシバの
根茎の下から出てくる
放浪するうちに、風は霧を
貝殻の腹中に入れて発酵する・漬物にする
高速道路は牛の群を魅了し
彼らを当惑させて都会に連れて行く
牛達は地下鉄の通路で生まれ変わり
あの有爪動物の呼吸の声は
ダンボールでできた家の通風孔から
苦し紛れに鳴っている
帆船の団は御朱印を携帯し
やって来て、また去って行く
一本の橋と
数列の石碑を残し
夕焼け空にひらひらとはためく四角の凧だけは
女性と子供の声を呼び戻している
時間をシーズンに分けた風は
外地の客の足を止め
鮒の絵がついた鏡を持つ内地からの女達を
沖合いに持ち出した
朝廷に仕える長官の私は
夕方の紫で染めた
藍色で染めた村々を
田圃と田圃の境目となる山盛りの石のとりでを
尻尾をはげしく振り動かしている蛟竜が
潜伏する湧き水の谷を
ねずみ色を吐いている煉瓦作りの塔を
だらだらと遊び回っている
一行の同郷人は弱まっている午後の日光の中に
盆地を横断し
刺繍の風呂敷に包む郷音の破片を私に与え
彼らは急に笑いさざめく
またすぐにさめざめと泣いていた
涙がぼろぼろ落ち
芝生が風に吹かれている屋上のレンガを
濡らしている
南寧 2000年7月
東京 2006月11月
* グェン・トン・クァイ(阮宗奎): 現代ベトナム語の表記はNguy_n T_ng Quai で、1693年-1767年。儒学者、遣清使、詩人。
** クリフォード・ギアツ(Clifford Geertz):1926年-2006年、アメリカの人類学者。代表作は『The interpretation of cultures: selected essays』(1973、和訳『文化の解釈学』)である 。
ゴミと無言
セーヌ川の岸で四人の先輩*と対話
水田と水田の間にいつもはっきりしていない
畦道に惜しみなく力を入れ
互いに異なる作物、文字、思想を
植えている私たちは時々休憩の合間に
畦道に上がって笑い話を競い
誰も自分の作物を自慢し
集まったのは笑い話の力比べをするためだけ
道路は何階重なっているけれどもいつも混んでいる
空にまたがる道も地下の道も
人と車が絶えず休みなくずらりと並んでいる
各々小刻みに先に進んでいる
向こう側にあるのは高く掲げられる
「知恵」という看板だ
私は一枚の苗代田から上がり
その看板の下で働く運搬人という仕事に申し込んでいた
脇目も振らずに
骨折り損のように働く
蛍光灯の下の
一晩
無言が重たがって萎れて
私の耳に秘かに「知恵はゴミだ
その看板はゴミのゴミだ」と言った
看板は私の両脚を
指紋がついた契約書で止める
私を縛っている鎖は甘い言葉と
それについた威嚇的表現だ
無言は飛んで
脇目も振らずに働く私を置いてさぼり
しかたがなくまた骨折り損のように働く:閉める、開く、持ち上がる、裁く、引く、押す、
投げる、拭く、拾う
垢抜ける、お洒落する、盗む、掏る、嘘つく、媚びる、怖じける、傲慢する
今晩こそ私の中に潜む勇気は
一度無言と決闘しようとする
あいつらは喧嘩し
汚い言葉で互いに侮辱しあう
勇気は無言の耳に「あなたもゴミだ。淫乱なやつ !」
と叫ぶ
勇気は無言の頬を打ち
あいつを蹴った
あいつを寝台柱に縛り
一枚の契約書を出し、あいつの指を朱肉に押す
無言は重たがって萎れて
あえぎあえぎ遺言のように
「私、貴方、蛍光灯の光、
人はともに有色・沈下的なゴミで
私たちを通し、私たちを結んでゴミ山にするのは
無色・浮動的なゴミだよ」と言い残した
私はまだ足を進められない
鎖は私の両脚を看板に縛っている
私の知識は私をゴミと無言にきつく縛っている
勇気は時々現れても
あいつ自身や無言と喧嘩するだけだ
2007年1月
* 四人の先輩: Jean-Paul Sartre (1905-1980、フランス哲学者・作家), Tr_n __c Th_o (1917-1993、ベトナム哲学者), Claude L_vi-Strauss (1908~ 、フランス人類学者), Phan Huy ___ng (1945~ 、ベトナム哲学者・作家).

